糸井 |
もっと、今日みたいなことってみんなが
考えなきゃいけなくって、
クリエイティブで飯食ってる人の周囲の人たちまで
考えなきゃいけないことなのに、
「じゃあ、てっとりばやくお金になるのって何?」
っていう人ばっかり考えちゃった。
「作る立場って何?」っていう人からの発想って
なかったんですよ。だから
そっからが勝負になると思うんですよ。 |
鈴木 |
何か、コーディネートやプランニングっていう
言葉じゃないんですよね。 |
糸井 |
プロデュースってのでもない。
大きい意味でエディターなんですよ。
エディトリアルに近いんですよ。
エディトリアルっていう概念の基礎って
こないだ知ったんだけど、知ったかぶりなんだけど、
ポンペイの格闘技場ってあるでしょ。
あそこで誰と誰を闘わせるかを決める役っていうのが
「エディター」なんだって。 |
鈴木 |
ふーん、すごい大変な仕事だね。マッチメイカーでしょ。 |
糸井 |
というか、全部やってる。 |
鈴木 |
そうだね。 |
糸井 |
みんな現役の格闘家たちってマッチメイカーとして
けっこう優秀でしょ。あれなんですよ。俺らそれ得意だよ。 |
鈴木 |
道場から知ってるってことでしょ。 |
糸井 |
あと、見栄えとか。その日までにこういうキャンペーンを
やってるとか、全部やってるとエディトリアルできる。
今のエディターって、活字ってこういうふうに
並ぶんだよね、っていう……要するに売れるほうからの。 |
鈴木 |
旧来のエディターってそうだよね。
何かレイアウトにはめていくっていう方法。 |
糸井 |
組み合わせをするとすごくって、
組み合わせ以上のことをすると、
やっぱり素晴らしいですよね。
そこまで考えると、経営っていうのも
エディトリアルなんだよ。 |
鈴木 |
音楽もエディトリアルですね。 |
糸井 |
そうだよね。丸と三角だもんね。 |
鈴木 |
その組み合わせだもんね。
曲をつくること自体がそうかもしれないし、
録音するっていうのも、ほんとに一部しか作らないで
断片をつなげてくっていうか。
それで異化効果を生むっていう。 |
糸井 |
そこで真逆の綾戸智絵さんが売れるのもよくわかるよね。
みんながそれやってるときに一発録りするでしょ。
あれは、40年間ずうっとあの力だけをためてきたから
いいんで、あんな人は何人もいないでしょうね。
やっぱりものすごいよ。びっくりするよ、背筋にくるよ。 |
鈴木 |
そうか。 |
糸井 |
ところで、こないだポンペイ展って行ってきたんです。
まずね、システム的に面白いのは、展示方法。
ポンペイの美術品とか道具類、
発掘して出てきたものを、当時の生活様式に
あてはめて展示しているんですよ。
部屋があって暖炉があるっていう。
例えば、「ポンペイの水」っていうのを説明する所は、
部屋のまんなかに水盤っていうのがある。
屋根がその形にあいてるらしいんですよ。
で、降った雨水がそこに貯まって、洗濯の水とかに
するらしい。そうやって見ただけで
どういうことを役割として果たしてたかっていうのが
ものすごくよくわかった。そこでまず第一にすげえなって。
で、ポンペイ全体の規模っていうのが模型で作ってあって、
2万人住んでたらしい。
で、それも「あ、こんなに狭いのか」ってだけで
またおもしろい。ちっちゃい2万人の街なんですよ。
だけど、生活の豊かさは、店も再現してあって、
いかに豊かだったかというのがリアルにわかる。
これって何で今までの展覧会って
こうじゃなかったのかなあ、って思って。 |
鈴木 |
部分を持ってきても、ね。 |
糸井 |
それを崇めなさいって、アイコンにしてしまうんですよ。
アイコンじゃない形でやるっていうのが、
まずそこであって。で、そこに仕掛けがあって。
展覧会、6か月やるんですよ。 |
鈴木 |
そりゃ長いね。 |
糸井 |
6か月やるから普通の展覧会より予算取れるんですよ。 |
鈴木 |
あ、そうかそうか。 |
糸井 |
で、6か月やるのでも、3か月ぶんの予算とったら
十分採算がとれるんですよ。向こうにしたら安上がりだし。
なおかつ、その場所っていうのが新しくできたところで、
裏なんかまだ打ち抜きの広告みたいになってるんですよ。
そこで大ポンペイ展をやってくれるっていうんだからね。
読売新聞がバックについてるんだから。 |
鈴木 |
で、今後もやるんだな。 |
糸井 |
かもしれないね。ま、これからは別にしても、
とりあえず予算配分と会期については、新しい建物って
いうので、このプロデュースはすごいな、って。
知ってる人がポンペイの研究をしている博士なんですよ。
この人の案内で見たんで、そういうのすぐに聞ける。
ベースが、ポンペイは何で豊かなんだって考えると、
一つは、肥沃な大地ですよね。で、もうひとつは
交易なんですよ。今のアムステルダム考えてもらえば
わかるけど、交易で商売できてて、経済水準が
すごく高かった。ぼくらが見本としてみてる場所が、
「これは貴族の家なんでしょうね」って言ったら
「いや、これは貴族というよりお金持ちの家なんですよ」
って。そして、「これはだいたい10%くらいです」って。
つまり、貴族ですかって間違えちゃったようなのが
紀元前何世紀に10%もいたっていう、その豊かさ。
とにかく経済水準が高いっていうことなんです。
その経済水準の高さの原因が、今言った交易と、農業。
そうなると労働力っていうのはどこかなって、
次、思いますよね。そうなると奴隷なんですよ。
奴隷っていうのは、基本的には王様に算数教える人まで
奴隷なんですよ、当時。習ったじゃないですか社会科で。
ソクラテスは奴隷出身だったって。
……ソクラテスだかどうか忘れちゃったけど。
で、その奴隷が働いてた、っていうのを、博士は、
「今でいう、サラリーマンみたいなもんですね」
っていうんだよ。つまり、奴隷を鞭で叩いても
制作効率って上がんないんですよ。
奴隷にある程度の豊かさを与えて、働かせれば、
とっても効率よく動くんですよ。
奴隷階級にはもちろん数学を教える人から
哲学を語る人からいたわけ。
何でそういうことを訊くきっかけがあったかっていうと、
粉挽き機があったんですよ。これロバにつながっててね。
「奴隷の労働として一番嫌われてたのが
この粉挽きなんですよ」って。だから、
「え?これ以上悪い労働はなかったの?」と思ったの。
「ええ、単調で」って。
「え、……じゃあ他の仕事は?」
「ですから、まあサラリーマンです」って。 |
鈴木 |
自分でまわすんですか? |
糸井 |
自分でまわすんです。粉ひきの仕事って嫌われてたから、
次はお前な、みたいにやったんじゃないのかなあ。
コロシアムで、勝ったら市民階級、みたいな。 |
鈴木 |
わかりやすいね。 |
糸井 |
俺が思ったのは、ポンペイを研究するときに、
まず心意気が基本だなって。
サラリーマン階級にあたる奴隷の労働力みたいな。
「今サラリーマンですねって言った位置は、
これからのコンピューターですね」って俺言ったの。
俺はほぼ日電脳部長の岩田さんによく聞いてたんだけど、
「嫌なことはみんなコンピュータに
やらせりゃいいんですよ」って言うんですよ。
誰でもできることはコンピュータにやらせりゃあいいって。
つまり頭脳奴隷、ですよね、そう考えてくと、
未来のイメージはここに雛形があるな、って。
そこにもう一回横入りするものがあって。
でもね、ポンペイって技術のかたまりなんだ。
音楽もすごかった。みんな、楽しむってことを
してるんですよ。
教養主義者は古臭い美術を全部すごいって言っちゃうけど、
俺から見るとたいしたことない。
で、たいしたことあるものとたいしたことないものとが
両方あるんです。彫刻でも。 |
鈴木 |
ずいぶん成熟した都市だね。 |
糸井 |
風呂屋の絵みたいなのもあれば、
本当に手に入れたくて手に入れているという美術品もある。
それがそれぞれの収入に応じて飼い分けられてたわけよ。
だから美術で満員なんだけど、
それぜんぶ職人さんが作ってたっていうんだよ。
(つづく) |